パパ活をして幸せになれる人」の条件とは？

それから数日が経った。志保さんとのキスの感触を思い出すと、正一さんは仕事中でも、ついにやけてしまう。周りの同僚や部下から変に思われないように、表情を引き締めた。志保さんは、「もし日程が合えば、夜のデートもしませんか？」と自分から提案してくれた。奥手の自分を気遣ってくれているのかもしれない、と思うと、ますます志保さんへの思いが募った。これから関係が深まれば、ホテルに行くこともあるだろう。ただ、この半年間のデートを通して、身体の関係になることは、お互いに信頼関係を深めた結果であって、決して目的ではない、ということを改めて感じた。少なくとも正一さんにとって、志保さんと交わしたほんの数秒間のキスは、これまでオショックスを重ねた女性たちとの数時間よりも、はるかに濃密なものだった。「単に一緒に過ごす時間の長さを延ばすのではなく、決められた時間の中で、体感時間の濃密さをいかに高めるか。この視点は重要かもしれませんね」と正一さんは語る。結局、恋愛も、結婚も、不倫も、そしてパパ活も、成功法則は全て同じだと言える。「相手の立場に立って物事を考えられるか否か」が、全てを決める。恋愛には期待、結婚には打算、不倫には背徳、パパ活には金銭と、それぞれ相手の立場に立って考えることを妨げる要因が隠れているが、それを乗り越えてはじめて、意味のある関係性を築くことができる。正一さんは、最後にこう語った。「関係性がデザインするものであるならば、突き詰めると、相手は誰でもいいのかもしれません。『誰でもいい』と言うと語弊があるかもしれませんが、デザインするスキルを持つ者同士であれば、どんな組み合わせでも幸せになれる。そう考えると、『パパ活をして幸せになれる人は、パパ活をしなくてもても幸せになれる人だけ』というジレンマがあることに気づきました」パパになる場合も、パパを探す場合も、この逆説にいかに立ち向かうかが問われるだろう。正一さんは一人の女性だけにオファーを出し、時間をかけてじっくり関係性を築いていくタイプだが、交際クラブでは複数の女性にオファーを出し、同時並行的に付き合っていくタイプの男性の方が多数派である。前者と後者では、交際クラブに対する関わり方や女性に求めるものに関して、大きな違いがある。パパ活の世界をより深く分析するためには、複数の女性と同時並行的に交際している男性の声にも耳を傾ける必要があるだろう。彼らの多くは、正一さんほど雄弁でも饒舌でもない。自分のやっていることに対して、大なり小なりの憂鬱さを感じているからだ。だが、彼らが感じているその憂鬱さにこそ、パパ活の構造を分析するための重要なヒントが隠れているに違いない。次章では、そうした「サイレント・マジョリティのパパたちの憂鬱」にスポットライを当てていきたい。