恋人でも、妻でも、愛人でもない関係

「自分も40代半ばになったので、いわゆる『オショックス』だけでは満足できなくなったんです」そう語る遠藤正一さん(45歳)は、一部上場企業に勤める会社員である。東京23区内にある3LDKの賃貸マンションで、3歳年下の妻と小学三年生の長女、4歳の次女の4人で暮らしている。正一さんは、3年程前から交際クラブを利用している。次女の誕生後、妻とセックスレスになって悩んでいた時に交際クラブの存在をネット検索で知り、冷やかし半分で登録してみることにした。若く美しい女性たちと、お互いの身元を伏せた上でデートやセックスが楽しめることに最初は興奮し、立て続けに3〜4人の女性と「オショックス」を重ねた。「オショックス」とは、お食事とセックスを掛け合わせた造語である。パパ活の世界では「食事をして、その後ホテルでセックスすること」という文脈で用いられる場合が多い。例えば「昨日の夜パパと会って、オショックスで5万もらったよ」といったように。いささか語呂の良くない、かつ卑猥な響きのある言葉であるため、それほど人口には膾炙していないが、芸能界や一部の文化人の間では1980年代から使われていたスラング(俗語)であるようだ。交際クラブは、若い女性とのオショックスを目的とした既婚男性にとっては、最も効率の良い世界である。金に糸目をつけなければ、毎日のように異なる女性と出会い、あとくされなくオショックスを安全に楽しむことができる。しかし、そういった利用方法は意外と長続きしない。正一さんのように、交際クラブを初めて利用した男性は、サイト上に掲載されている膨大な数の女性の中から、自分の好みの年齢・容姿・性格・趣味の女性を選び抜き、自由に関係を結べることに感動を覚え、何人かの女性とオショックスを繰り返す。
だが、一定の割合の男性は、その過程でつまらなさや虚しさを覚えて、短期間で交際クラブをやめてしまう。どんなに容姿端麗・眉目秀麗な女性だったとしても、出会って1〜2時間食事をしただけでは、お互いの性格や相性はつかみきれない。そうした関係性の薄い状態、お互いの信頼関係が醸成されていない状態でいきなりホテルに行っても、得られるのは束の間の肉体的な満足のみであり、精神的な満足は得られない。行為が終わった後に、ふとバスルームの鏡の前で我に返って「自分は何をしているのだろう」「こんなことに多額のお金を使って、何の意味があるのだろう」と考えてしまう。これを「オショックスの壁」と呼ぼう。正一さんはこの壁にぶつかり、「自分は一体何がしたいのだろう」「自分にとって女性とは、そしてセックスとは一体何なのだろう」という自問自答を繰り返すようになった。

 

 

 

恋人でも、妻でも、愛人でもない関係を交際クラブで記事一覧

交際クラブを通して女性とオショックスを繰り返すだけでは、それなりに肉体的な満足は得られても、精神的な満足は得られない。一方、妻との夫婦関係は決して悪くないが、その中で得られるのはあくまで「夫」「父親」としての満足であり、「男」としての満足は得られない。悩み続ける過程で正一さんは「交際クラブを利用して、女性とオショックスだけではない、一定の精神的なつながりのある関係性を築くことができないだろうか」と...

初回の面会場所は、パパ御用達の高級ホテルのロビーやレストランではなく、JR新宿駅西口近くのカフェを指定した。「いきなりホテルのレストランで食事をするのではなく、まずは喫茶店で小一時間お茶を飲みながら会話をして、相性が合いそうな女性かどうかを見極めよう、と思ったからです。場所を新宿に指定したのは、高級志向の女性を排除するためです。交際クラブには、一定の割合で、食事もホテルも『銀座じゃなければ嫌』とい...

正一さんは、そんな志保さんの礼儀正しさに好印象を抱くと同時に、若干の「プロ臭」を感じた。パパ活においては、女性が男性とのやりとりに手慣れていればいるほど、デートの際の気遣いが多ければ多いほど、男性はそこに「プロ臭」を感じて、逆に冷めてしまうというジレンマがある。パパになる男性は、水商売や風俗の女性ではなく、あくまで男性慣れしていない素人の女性と関係を持ちたいと考えている。そのため、女性から笑顔で「...

次回のデートの予約をしてもいいですか、と告げると、志保さんは「えっ、次の約束をしてくださるんですか?」と胸に手を当てて喜んだ。定期的に会ってもらえるかどうかは、女性にとっては生活がかかっている場合もあるので、気になるところだろう。ただ仮にお金のためだとしても、「次回の約束を喜んでくれる」というのは、少なくとも相手にとって自分が「お金をもらってもデートしたくない相手」ではないことの証明になる。パパ活...

その後も、正一さんは月に1回・3時間のペースで志保さんとのデートを重ねた。毎回のデートプランは、志保さんとの話し合いで決める。「したいことや行きたい場所があったら、いつでも言ってくださいね」と言われるが、なかなか思いつかない。正一さんは、自分の欲望を意識するのは意外と難しい、ということを再確認した。放っておくと、人は欲望を忘れてしまうのかもしれない。欲望を忘れないためにも、志保さんとの関係性をきち...

自らのパパ活観を饒舌に語る正一さんだが、4回目のデートの後で、やや落ち込む出来事があったという。デートの数日後、ふと思い立ってスマホで交際クラブの志保さんのページを見たところ、写真が新しく更新されていた。更新の日付は、正一さんとのデートの日と同じだった。積極的にパパ活をしている女性は、男性からオファーを集めるために、定期的にクラブの事務所を訪れて写真や動画を撮り直す「再撮影」を行う。1年間、全く同...

5回目のデートの終わりに、志保さんが「ナオキさんは、どうして私と付き合ってくださっているんですか?」と尋ねてきた。正一さんは、一瞬答えを考えつつも、「仕事ばかりだと、どうしても同じような価値観の人たちばかりと一緒に過ごすことになるので、価値観の異なる人と出会って見聞を広めたいと思ったんですよ」と答えた。すると志保さんは、「そうなると、私とナオキさんは価値観が合わない、ということになるんですか?」と...

進展があったのは、6回目のデートでカラオケに行った時だ。渋谷のカラオケの個室で、ハニートーストとパスタを食べながら、お互いの好きな歌を歌った。1曲目、志保さんはBUMPOFCHICKENの『アルエ』を歌った。「この『アルエ』って、誰だか知ってます?」「エヴァの綾波レイでしょ?我々の世代では常識ですよ〜」と、歌を通して会話も弾んだ。意外にもアニソンが好きな志保さんは、立て続けに『蒼穹のファフナー』と...

それから数日が経った。志保さんとのキスの感触を思い出すと、正一さんは仕事中でも、ついにやけてしまう。周りの同僚や部下から変に思われないように、表情を引き締めた。志保さんは、「もし日程が合えば、夜のデートもしませんか?」と自分から提案してくれた。奥手の自分を気遣ってくれているのかもしれない、と思うと、ますます志保さんへの思いが募った。これから関係が深まれば、ホテルに行くこともあるだろう。ただ、この半...